昨日の5月9日、billboard classics 玉置浩二 LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2026 “Fanfare”@熊本城ホール メインホール公演に参加しました。
指揮:栁澤寿男
管弦楽:九州交響楽団
※本投稿では、公演のセットリストや演出を記載します。本ツアーは15都市25公演の規模で行われます。初日を迎えていない方や、ネタバレに抵抗のある方はご注意ください。
1. 公演前の様子
公演前の会場の様子です。





玉置さんのコンサートではお馴染みの会場ですが、私にとっては今回が初めての訪問となりました。熊本公演は金曜日と土曜日の2日間開催されており、その2日目に参加しました。
この2日間で指揮を務めるのは栁澤さんです。栁澤さんといえば、長年玉置さんのシンフォニックコンサートを支えてきた存在。2年前、“Pastorale”ツアーのファイナル、万博記念公園でもタクトを振っていた姿が記憶に新しいです。
今回の“Fanfare”ツアーで栁澤さんが登場するのは、この熊本の両日のみ。その貴重な共演シーンを観ることができました。
2. 第一部の様子・各曲の感想

この日の座席は、1階席前方の下手寄りブロックでした。ステージに向かって左側のエリアでしたが、かなりセンターに近い位置だったため、オーケストラ全体をしっかりと見渡すことができました。
定刻の16時、九州交響楽団のメンバーが続々とステージに姿を現しました。続いてコンサートマスターが一人で登場し、オーボエの音に合わせて全体の調律が始まります。この日のチューニングは、とても長い時間をかけて念入りに行われていました。やがてコンマスが席に座ると同時に、ステージがゆっくりと暗転。いよいよ幕が開けるという心地よい緊張感が、ホール全体を包み込んでいきました。
しばらくすると、栁澤さんが舞台下手から登場しました。左手にタクトを携え、ステージ中央へと颯爽と歩みを進めます。ここでは、歩きながら勢いよく両手を楽団に向けて上げ、メンバーの起立を促しました。コンマスとしっかり握手を交わした後、指揮棒を地面と水平に構えてキリッと一礼。その凛とした姿を見て、こちらの気持ちも一段と引き締まりました。
1. ファンファーレ(管弦楽)
栁澤さんの指揮で管弦楽の演奏が始まりました。まずはティンパニがざわめくような単調なリズムを刻み、そこにチェロとコントラバスの重低音がどっしりと重なる、静かな立ち上がり。やがてホルンの音色が加わると、すぐにストリングスの高音が主旋律を引き継ぎ、瞬く間に華やかな色彩がステージいっぱいに広がっていきました。
中盤、フルートの独奏が曲の前奏を奏でます。非常にゆったりとしたテンポで奏でられるその旋律は、とても優雅でノスタルジックな響きが印象的でした。
終盤に向かって再びストリングス隊が主旋律を力強く奏でると、高音が一層輝きを増し、曲はクライマックスへ。最後はブラスも加わって、オーケストラならではのゴージャスな響きとともに見事なフィナーレを迎えました。
2. 歓喜の歌(管弦楽)
前曲の余韻が残る持続音に、ピタリと重なるようにホルンの音が響き、曲が移り変わります。この淀みのないスムーズなスイッチは、とても美しく見事な導入でした。
栁澤さんは身体を前のめりにしながら、両手を大きく使ってオーケストラを導いていきます。まるで腕の中に音を抱きかかえるように送るタクトからは、一音一音に対する深い真心が込められているのを感じました。
この曲では、各楽器のソロパートが始まる直前の間が比較的長く取られていたのが印象的でした。その贅沢な空白を支配していたのも、やはり栁澤さんの指揮でした。前のパートの残響を両手でそっと握りしめるようにして止め、その静寂の作り方が実に見事でした。
そして、演奏はいよいよ圧巻のフィナーレへ向かいます。栁澤さんがタクトを持っていない左手をゆっくりと掲げ、感情を乗せて震わせる情熱的な指揮。それに呼応するように、オーケストラのボリュームが一段と高鳴っていきました。最後は、タクトを握った右手をダイナミックに振り抜き、身体ごと下手方向へひねる圧巻のフィニッシュ。見事で華やかな幕切れとなりました。
ここで栁澤さんが舞台下手に合図を送ると、少しの間をおいて、いよいよ玉置さんがステージに姿を現しました。ステージ中央で栁澤さんと向き合い、両手でガッチリと握手を交わす二人。その姿からは、これまでステージを共に作り上げてきた、お互いへの深い敬意と厚い信頼関係がひしひしと伝わってきました。
玉置さんが客席へと向き直ると、会場を包んでいた拍手はさらに一段と激しさを増し、熱狂の渦が広がります。やがてホールが静かに暗転。いよいよ第一部の本編が幕を開けました。
3. GOLD
ストリングスの柔らかな演奏で曲が始まると同時に、ステージは温かなオレンジ色に染まりました。玉置さんが歌い始めると、一人ひとりに語りかけるような、深みのある歌声がずっしりとホールに響き渡ります。
この曲は、玉置さんとマエストロの細やかな連携が見どころの一つですが、この日は少し違った印象を受けました。栁澤さんはオーケストラの響きを統制することに集中し、玉置さんがその流れを背中で感じながら、要所で振り返って入りを確認するスタイル。見合わずともタイミングが完璧に合致する様子が見事でした。
一方で、両者が真っ向から向き合う場面もありました。間奏が終わり、曲がクライマックスへ向かう
黄金色に輝く 天使に導かれて
のパート。ここでは栁澤さんも玉置さんの方を向き、二人で呼吸を合わせます。その瞬間に生まれた一体感は、なんともいえないとてもドラマチックなものがありました。
後奏では、オーケストラの伴奏に寄り添うように、玉置さんがとても繊細な裏声を散りばめていきます。最後まで主役としての存在感を放ちながら、演奏が終わる瞬間には栁澤さんのタクトが止まるのと同時に、玉置さんがマイクを両手で強く握りしめるポーズを披露。最後の一音まで、大切に響きを抱きしめるような姿で曲を締めくくりました。
4. キラキラ ニコニコ
真っ暗なステージに、ざわめくようなシンバルの音が長く響き渡り、静かに幕が開きました。その音色を引き継ぐようにストリングスがクレッシェンドで重なり、前奏が始まります。玉置さんは伴奏に寄り添うように、かすかなフェイクを織り交ぜながら、この曲の持つ繊細な世界観を丁寧に紡ぎ出していきました。
歌唱パートに入ると、玉置さんの重厚な低音に重なって、チェレスタのキラキラとした輝かしい音色が進行を彩ります。これまでの公演では、このパートは後方の打楽器セクションによる鉄琴の演奏だと思っていました。しかし、打楽器の動きと音が一致しないことが以前から気になっており、この日は下手側の座席からステージを隅々まで見渡せたことで、ついにその主を確認することができました。舞台下手、ピアノのさらに前方側に設置されたチェレスタを、ピアニストが各パートごとにピアノと行き来しながら見事に弾き分けていました。
今回の歌唱では、これまでにないフェイクやジェスチャーが随所に織り交ぜられていたのも印象的でした。
山は高いんですか キラキラしてますか
から
海へ行こうよ 世界は広いよ
へと移る短い休符の間に、
Yeah〜
と漏れるような歌声を入れたり、
365日晴れのちくもり雨
では、何かを希求するようにスッと手を前に伸ばしたり。一つひとつの動きが新鮮でした。
圧巻だったのは後奏です。オーケストラが壮大な演奏を繰り広げる中、玉置さんのロングトーンが一筋の光のようにホールを貫きました。トーンの最中、音程も声質も一切揺らぐことなく、ただただ真っ直ぐに叫び続けるその姿。オーケストラの厚みある響きと玉置さんの歌声が共鳴し、大きな感動が押し寄せました。
最後は大音量の演奏から一転して、静かに幕を閉じます。曲が終わった瞬間、玉置さんは両手を軽く前へと差し出し、ここでも最後の一音まで慈しむような、優しい表情で曲を締めくくりました。
5. 純情
曲が始まる前、ステージには静かな間が流れました。やがて栁澤さんが上手最前列のヴィオラ奏者へ合図を送ると、ヴィオラの独奏が先行して響き、続いて木管楽器が重なる前奏が始まります。ステージは再び柔らかなオレンジ色に照らされ、ホール全体が深みのある空気感に包まれました。
玉置さんが歌い始めると、すぐにその歌声に変調が起こります。冒頭の
いつだって会いたいよ かあちゃんに会いたい
を歌い終えた直後、続く
リュウマチで手が痛むかい 痩せてないか
という一節で、声量がふっと急激に弱まりました。
一瞬、感極まったのか、あるいは歌詞に詰まったのかと息を呑みましたが、その後の揺れ動くパフォーマンスを見て、玉置さんが込み上げる想いを必死にこらえながら、声を詰まらせて歌っていることは明白でした。本来なら力強さが増していくサビでも、非常に繊細な緩急がつき、波乱の予感を含んだまま一番を終えました。
二番に入ってからも、感情が溢れ出すようなパフォーマンスは続いていきます。入りの
桃太郎 鬼退治 鬼だってかまわない
では、たっぷりとしたタメを作り、語りかけるような切実な歌い方に。また、これまでの公演では野太くパワフルに響かせていた
その言葉だけ 投げ出さずいた〜
のロングトーンも、この日はそっと力を抜くような歌い終わりで、その響きはどこまでも切なく、聴き手の胸に迫るものでした。
その後に流れた木管楽器による間奏は、これまでのどの公演よりも情感豊かなものでした。哀愁漂う音色が、会場の空気をより一層深く、感動的なものへと染め上げていきます。
ラストサビの、
思ったように 好きに生きなよ あせらず
を落ち着いたトーンで歌い始めると、そこからは徐々に玉置さんの歌声に力が宿り始めます。これまでの繊細な表現から、一気にパワフルで力強いパフォーマンスへと変貌。その鮮やかな移り変わりに、客席の感動もピークに達しました。
そして迎えたクライマックス。玉置さんはありったけの想いを込めて、
かあちゃん
と力強く叫びました。「母の日」と、お母様の命日である5月10日を翌日に控えたこの日。込み上げる想いそのままに放たれたシャウトは、まさにこの日、この場所でしか聴けない特別なものでした。後奏でも伴奏に合わせて魂を振り絞るように叫び続け、この忘れられない一曲を感動的に締めくくりました。
曲が終わると、玉置さんは客席に向かって無邪気な笑みを浮かべました。その後、左手で目元を拭う仕草も見せました。次曲のために場内が暗転すると、テーブルのタオルを手に取って鼻を拭い、静かに気持ちを整える姿が座席から確認できました。
6. MR.LONELY〜サーチライト(メドレー)
栁澤さんの指揮によってオーケストラが軽快なリズムを刻み始め、「MR.LONELY」が幕を開けました。普段はここで、玉置さんが裏声の短いフェイクを入れながら前奏の発声パートへと向かうのが定番の形です。しかし、この日は前奏の間も玉置さんはタオルを顔に当て、珍しく短編のフェイクがない静かなスタートとなりました。
ところが、いざ歌唱パートが始まると、そこにはいつもの圧倒的な玉置さんの歌声が戻っていました。序盤の重厚で落ち着いた響きから、終盤に向けて放たれる伸びやかでパワフルな絶唱へ。直前の曲で激しく感情を揺さぶられ、声を詰まらせていたとは到底思えないほどの、完璧で見事なパフォーマンス。その歌声の力強さが、瞬く間にホール全体を席巻していきました。
木管楽器の柔らかな音色に導かれ、メドレーは「サーチライト」へと移り変わります。この日の演奏は、普段よりもスピード感がやや抑えめな、ゆったりとしたテンポが印象的でした。玉置さんもそのスローテンポに寄り添うように、一語一語を慈しむように歌い上げていきます。その丁寧な歌唱によって、一つひとつの言葉がいつも以上に重みを持って響いてきました。
そして迎えたラストサビ、
サーチライトはそうなんだ
君なんだ 君なんだ
というフレーズに合わせて、玉置さんが客席に向けてゆっくりと手を伸ばします。まずは2階席の隅々までを包み込むように手をかざし、それから1階席へと緩やかに手を下ろしていく。会場にいる一人ひとりに向けていくような、温かさに満ちたジェスチャーでメドレーを締めくくりました。
7. Friend
引き続きゆったりとしたテンポで、オーボエの哀愁漂う前奏が始まりました。途中からチェロの重低音が重なり合うと、曲調は一気に厳かで重厚な雰囲気へと変わっていきます。前奏の終わりとともに、それまでステージを照らしていた濃紺のライトが絞り込まれ、舞台は深い暗闇に包まれました。
その静寂の中、ピアノの三音を合図に歌唱パートが始まります。暗闇に玉置さんを照らす白い光と、栁澤さんを照らす黄色い光が浮かび上がり、二人の姿が鮮明に強調される演出。そこで響いた玉置さんの歌声は、どこまでも澄み切っていて瑞々しく、聴き手の心にスッと染み入るような美しさが印象的でした。最近の公演でもこうした透明感のある歌い方が際立っていますが、この日は特にその純度の高さが感じられました。
サビに入ると、その歌声は一変して圧倒的な力強さを帯びていきます。どこまでも伸びていくロングトーン。ホール全体の空気を震わせるようなその響きに、ただただ圧倒されるばかりでした。
ラストも圧巻の歌声で締めくくると、大きな拍手に包まれながら玉置さんがステージを後にします。主役が去った後も、オーケストラによる壮大な後奏が余韻を繋ぎ、最後は栁澤さんが両手を優美に握る仕草で、音をそっと閉じ込めました。
こうして、感情の波が幾度も押し寄せた、激動の第一部が幕を閉じました。
3. 第二部の様子・各曲の感想
約20分間の休憩を終え、いよいよ第二部が始まります。
九州交響楽団のメンバーが再びステージに姿を現すと、まずは調律が行われました。その音色は第一部のときよりもさらに念入りで、力強く豊かな楽器の音がホールいっぱいに広がっていきました。
しばらくの間をおいて栁澤さんが登場。印象的だったのは、舞台に姿を現す前から聞こえてきた、床を踏みしめて歩く勇ましい足音です。その力強い音からは、マエストロの並々ならぬ気合が伝わってくるようでした。ステージ中央でコンマスとがっちりと握手を交わすと、オーケストラによる華やかな管弦楽で、第二部の幕が切って落とされました。
8. 『ハンガリー舞曲 第1集』より 第5番(J.ブラームス)
第二部のスタートを飾るのは、シンフォニックコンサートではすでにお馴染みとなった、ブラームスの「ハンガリー舞曲」です。これまでの公演では「第1番」が演奏されることが多かったですが、この日は「第5番」が披露されました。
曲は「ハンガリー舞曲」らしい、弦楽器が迫りくるような力強い演奏で幕を開けます。冒頭の哀愁漂うメロディーは、次第に緩やかなテンポへと変化し、再び激しく情熱的に加速していきます。その目まぐるしく変わる緩急のついた演奏は、聴いていて非常に心地よく、一気に引き込まれました。途中からはシンバルの繊細な響きが加わり、軽快なリズムのアクセントとなって曲を彩ります。
この曲では、栁澤さんの指揮も大きな見どころでした。中盤、バイオリンの響きが一段と強くなる場面では、自らの身体を投げ出すように激しくバイオリンセクションの方へと身を乗り出し、タクトを振る姿が圧巻でした。
最後は俊敏な動きでオーケストラを見事にコントロールし、鮮やかなフィニッシュ。会場は大きな拍手に包まれ、第二部の管弦楽を華やかに締めくくりました。
管弦楽のリンクを以下に貼ります。
ここで栁澤さんが再び下手へと合図を送ると、玉置さんがステージに姿を現しました。一歩一歩、ゆったりとした足取りで中央へと進む玉置さん。栁澤さんと再び固い握手を交わし、客席の方を向いた瞬間、拍手のボリュームが一際大きく跳ね上がりました。
玉置さんが静かにマイクを手に取ると、ステージはゆっくりと暗転。いよいよ第二部の本編が幕を開けます。
9. アリア
ストリングス隊による短い導入で、静かに曲が始まりました。それと同時にステージは深い濃紺の光に包まれ、幻想的な情景が広がっていきます。
伴奏の音が消えた瞬間、玉置さんの
忘れようとした…
という歌声が響きました。あの澄み切った裏声は何度聴いても神秘的で、その一言が放たれただけでホールの空気感がガラリと変わっていくのを感じました。
サビでは、玉置さんの繊細な裏声と力強い地声がワンフレーズの中で自在に入れ替わる、圧巻の歌唱が展開されます。二番のパート、
花散る道に 粉雪の空港に あなたを見る
では、ラストサビに向けて玉置さんがグッと声を張り上げたそのとき、ステージではちょっとしたハプニングが起こりました。栁澤さんの情熱的なタクトが、勢い余って指揮台の楽譜に接触。譜面がふわっと浮き上がりました。栁澤さんはすぐさま手でそれを押さえてことなきを得ましたが、楽譜が舞うほどの熱い指揮と、それに呼応する玉置さんの絶唱。パフォーマーの魂のぶつかり合いを目の当たりにし、胸が熱くなりました。
10. 行かないで
ゆったりとした、静かなスピード感で曲が始まります。この曲もまた、玉置さんの繊細な裏声と大胆な地声が、極限までコントラストをなす圧巻のパフォーマンスとなりました。特にこの日、サビの入りで放たれた
Ah〜
行かないで 行かないで
のフレーズ。その震えるような裏声は、聴く者の心の奥底まで揺さぶるほどに鮮明で、息を呑むような感動に包まれました。
この曲はオーケストラによる演奏も大きな見どころがあります。二番が終わった後の間奏では、オーボエのソロが哀愁漂う調べを奏で、さらに後奏ではコンサートマスターによるバイオリンソロが、切なくも美しい旋律を引き継ぎます。そこから再びオーケストラ全体が加わる壮大なアンサンブルへと移り変わる流れは、まさに交響曲としての真髄を見る思いでした。
玉置さんは、オーケストラが主役となるこれらの間奏・後奏の間も、マイクを胸の前で静かに構えたまま、ステージの最前方で立ち続けていました。その揺るぎない立ち姿は、歌っていない瞬間ですら圧倒的な存在感を放ち、楽曲の世界観を最後まで凛と支えていました。
11. ワインレッドの心〜じれったい〜悲しみにさよなら(メドレー)
栁澤さんが俊敏な動きで指揮の構えに入ると、その鋭いタクトに誘われるようにハープの音色が響き、「ワインレッドの心」が始まりました。玉置さんは、リズムに身を任せるような軽快な歌い口で、パフォーマンスを進めていきます。
圧巻だったのは、ラストサビの
あの消えそうに燃えそうな
ワ〜〜インレッドの〜
で見せた、力強く突き抜けるようなシャウトです。その圧倒的なエネルギーを前に、指揮を振っていた栁澤さんが、思わず玉置さんの方を向いて陶酔したような表情を浮かべていたのが非常に印象的でした。長年共演してきたマエストロをも心酔させる、玉置さんの歌声の凄みを目の当たりにした瞬間でした。
高揚感あふれる間奏を経て、楽曲は「じれったい」へと移り変わります。ここから会場の雰囲気はガラリと一変し、ステージ上の熱量が一気に上がっていきました。玉置さんの歌声は力強さを増し、それに呼応するように栁澤さんの指揮も激しさを極めます。マエストロの情熱的なタクトに導かれたオーケストラの演奏も、一段と鋭く、アグレッシブな響きを放ち始めました。歌声と演奏が真っ向からぶつかり合い、高め合うようなそのパフォーマンスは、まさにシンフォニックロックの醍醐味。観客のボルテージも最高潮に引き上げられていきました。
そして、メドレーはいよいよ最終章、「悲しみにさよなら」へと移ります。この日のサビでは、いつもとは違う特別な歌詞アレンジが届けられました。玉置さんが
愛を熊本のために
と、この地の名前をダイレクトに込めて歌い上げると、客席からは大きな拍手が起こりました。
そこからラストサビに向かうにつれ、玉置さんの歌声にはさらに深い熱がこもっていきます。その力強さと伸びやかさは増すばかりで、ホールの隅々までを圧倒的な歌声が満たしていきました。
そして、曲のクライマックスで訪れたノーマイク歌唱。
泣かないでひとりで
ほゝえんで見つめて
あなたのそばにいるから
の一節で、玉置さんは右手に持ったマイクを完全に腰の位置まで下げ切り、生の歌声を響かせました。ホールに真っ直ぐ通るその地声は、マイクを通したときとはまた違う、胸に直接訴えかけるような響きを帯びていました。
短い間奏を経て迎えた最後の
悲しみにさよなら〜
では、慈しむように胸に手を添え、優しくも力強くメドレーの終幕を飾りました。
曲が終わった瞬間、玉置さんはマイクをテーブルへ、栁澤さんはタクトを譜面台へと置き、両者がガッチリと握手を交わしました。二人の晴れやかな表情からは、壮大なメドレーを見事にやり遂げたという、深い充実感が溢れ出していました。
12. JUNK LAND
栁澤さんの鋭い指揮により、リズミカルな前奏が鳴り響きます。曲が進むにつれ、客席の一部から手拍子が沸き起こり、徐々に広がっていくという雲行きの怪しい展開になりました。しかし、歌唱パートが始まるとその音は不思議とパタリと鳴り止みます。観客が自制したというよりは、この日のテンポ設定がそこまで速くなかったため、手拍子のリズムが曲調にそぐわず、自然消滅していったように感じられました。(とはいえ、ごく一部で継続する音に、聴衆としてステージへの集中を削がれるようなストレスを感じる場面もありました。)
そんな中、特筆すべきは栁澤さんのパワフルで俊敏な指揮です。各パートの冒頭、歌い出しのタイミングを玉置さんに知らせるように、左手を激しく振り下ろす動作が非常に印象的でした。
爆速でオーケストラを牽引する大友さんや、常に玉置さんを注視する田中さんとも違う、合図を明確に送る独特のスタイル。聴いている側からも入りが分かりやすく、玉置さんも全幅の信頼を寄せてリズムを預けているように見えました。玉置さんはその指揮に呼応し、寸分の狂いもないタイミングで歌い進めていきました。
曲のラストは、玉置さんと栁澤さんが真っ向から正対。華麗なタクトの動きに合わせ、玉置さんがピッタリとマイクを引いて歌声を収める。これ以上ないというほどのベストタイミングで、圧巻のパフォーマンスを締めくくりました。曲後のガッチリとした両者の握手からは、共にこの難曲を駆け抜けたという強い達成感が伝わってきました。
さらに、演奏後にはこの日の熱量を象徴するような光景を目にします。指揮台の栁澤さんが、衣装のシャツをパンツに入れ直すような仕草を見せたのです。おそらく、あの過激なまでの指揮動作によってサスペンダーが外れ、衣装が乱れてしまったのでしょう。常に隙なく着こなされているマエストロの衣装が崩れるほど、この一曲に込められたエネルギーは凄まじく、熱を帯びたものだったことが痛烈に伝わってきました。
13. 夏の終りのハーモニー
本編のラストは、オーケストラの壮大な演奏で幕を開けました。まさにシンフォニックの王道といった重厚な響きが、会場全体を包み込みます。
歌唱パートに入ると、玉置さんの歌声に驚かされました。深みのある重厚な声ですが、どこか軽快さも混じっている、本来相反するような声質が共存した、今まであまり聴いたことのない不思議で魅力的な歌い方でした。
そして、2番が終わると玉置さんは素早くマイクをテーブルに置き、ノーマイクでの歌唱へ。この日は1階席の前方だったこともあり、マイクを通さない生の歌声が、クリアに真っ直ぐ届いてきました。
最後のロングトーン、
忘れずに〜〜〜〜〜
の場面では、玉置さんが声を伸ばしている最中に、栁澤さんの指揮でオーケストラの演奏が重なり始めました。玉置さんの歌声と楽器の音が溶け合う時間がいつもより長く取られ、とても美しいラストになりました。
玉置さんの歌声が収まると、客席からは自然と拍手が湧き起こります。さらに、オーケストラの後奏が続いている間にも拍手の波が広がっていきました。曲が終わる瞬間、玉置さんは両手をギュッと握り合わせ、とても充実した表情を浮かべていました。その姿を見て、こちらまで胸がいっぱいになるような、最高の締めくくりとなりました。
曲が終わるとホール全体がパッと明るくなり、カーテンコールが始まりました。ステージの下手側には栁澤さん、上手側には玉置さんが立ち、降り注ぐような拍手を全身に浴びています。玉置さんが栁澤さんを称えるように手を向けると、栁澤さんもそれに応えるように玉置さんへ手を伸ばす。そんな、お互いを尊敬し合う素敵な姿がとても印象的でした。しばらくして、玉置さんが先にステージを後にします。栁澤さんは、玉置さんが舞台から完全に姿を消すまでしっかりと見届けてから、自身もゆっくりと退場していきました。
それでも拍手は鳴り止まず、その熱気に導かれるように、二人が再びステージに登場。今度は玉置さんがステージの真ん中に立ち、栁澤さんはコンサートマスターの横まで一歩引いて、主役である玉置さんを引き立てていました。そこで二人が力強くガッチリと握手を交わすと、玉置さんは一度退場。残った栁澤さんが再び指揮台に登り、いよいよ待ちに待ったアンコールが始まりました。
14. 田園
アンコールは、ベートーヴェンの「田園」の調べから始まりました。流暢で心地よい演奏が進むにつれ、その旋律の中に少しずつ、玉置さんの「田園」のメロディーが混ざり合っていきます。静寂の中で木管楽器が
生きていくんだ〜
それでいいんだ〜
という主旋律を奏でた瞬間、ステージがパッと明るくなり、客席からは自然と手拍子が沸き起こりました。そして、玉置さんが再びステージに姿を現すと、待ってましたと言わんばかりに観客は総立ちとなりました。
歌が始まると、ここでも栁澤さんの指揮が光ります。「JUNK LAND」のときと同じように、左手を大きく振りかざして歌い出しを合わせ、玉置さんもその合図に乗って軽快に、アップテンポで歌い進めていきました。
サビに入ると手拍子はさらに大きくなり、ボルテージは最高潮に。ここで玉置さんは
愛はここにある 熊本城ホールにある
と歌詞を変えて歌い上げました。力強くステージを指差しながら歌い切る姿に、会場の熱気はさらに跳ね上がりました。
続く間奏では、客席のライトも点灯してステージと客席が完全に一つになりました。ここで玉置さんは両手を広げ、発声パートの合唱を観客に委ねます。さらに、2番のサビが始まると、ここでも玉置さんは再び大きく両手を広げ、
生きていくんだ それでいいんだ
というメッセージを観客に託しました。
昨年のシンフォニックツアー“ODE TO JOY”公演では、間奏やサビは観客の合唱が主流になりましたが、今年はここまで玉置さんが歌い上げるスタイルが続いていました。そのため、この相次ぐ合唱のシーンは驚きとともに、特別な一体感を生んでいました。
実はこの日、一部の観客からクラシックコンサートの場としては少し過剰な煽りも見受けられ、集中が削がれるような場面がありました。しかし、玉置さんは、そうした一部の動きも「会場全体の熱気」として大きな愛で包み込み、合唱という形に昇華させてくれたように見えました。マナーの枠を超えて、全員を音楽の渦に巻き込んでしまう、玉置さんならではの非常にスマートで温かい振る舞いだったと感じます。
最後は玉置さんの圧巻のスキャットとシャウトがホールに響き渡りました。ラストシーンでは、玉置さんと栁澤さんが真正面から向き合い、完璧な呼吸で見事なフィナーレを迎えました。
鳴り止まない拍手の中、二人はその賞賛を真っ直ぐに受け止めます。すると、余韻に浸る間もなく栁澤さんが再び指揮台へ。玉置さんもマイクを握り直し、次なる曲へと向かいました。
15. メロディー
短編の前奏に続き、玉置さんの
あんなにも好きだった…
という歌声で曲が始まりました。これまでの会場の熱気からして、玉置さんが歌い始めた瞬間に大きな拍手が起こるかと思いましたが、意外にも客席はしんと静まり返り、穏やかなスタートとなったのが印象的です。
この日の玉置さんの歌声は、どこか儚さを秘めた、切実な響きを放っていました。第一部の「純情」のときのような感極まった様子とはまた少し違い、とてもセンチメンタルな玉置さんの胸の内が伝わってくるような、心に深く染み入る歌声でした。
しかし、サビに入ると一転して、力強い歌唱へとシフトします。野太く、真っ直ぐに伸びるロングトーンがホール全体に響き渡りました。
2番が終わった後の間奏では、客席から温かい拍手が送られました。玉置さんは胸に手を当てて丁寧に一礼して応えると、すぐさまマイクをテーブルに置き、ノーマイク歌唱の準備に入ります。
そこからは、マイクを通さない玉置さんの歌声が響き渡ります。オーケストラの音が極限まで絞られたことで、玉置さんの生の声がより一層、鮮明に聴こえてきました。最後のロングトーン、
泣かないで〜〜〜〜〜
では、栁澤さんの指揮に合わせてオーケストラの演奏が再び熱を帯び、玉置さんの歌声と見事に共鳴しました。歌い終わる瞬間と、演奏がピタッと止まるタイミングが完璧に一致し、息を呑むほど美しい幕切れとなりました。
曲が終わると、客席からは割れんばかりの大きな拍手が送られました。玉置さんと栁澤さんはステージ上でいくつか言葉を交わすと、再び栁澤さんは指揮台へ。玉置さんもマイクを手に取り、さらなる次曲へと向かいました。
16. ファンファーレ
フルートの優雅な独奏で、静かに、しかし力強く曲が始まりました。繊細で美しい音色がホールを包み込むと、ツアータイトル曲の始まりを確信した客席からは、歓喜の拍手が沸き起こります。
直後に曲が一気に転調し、アップテンポなリズムが刻まれ始めました。玉置さんはその音を身体を傾けてしっかりと耳で捉えると、主旋律の開始とともに両手を大きく広げ、観客に手拍子を煽って会場をさらに盛り上げます。
歌が始まるとステージは一度暗くなり、穏やかな雰囲気に変わります。その中で際立っていたのが、弦楽器を指で弾くピチカートの音色です。栁澤さんの弾むような指揮が軽やかなリズムを引き出し、クラシックの重厚さの中に、ポップな表情を見せてくれました。
サビ前の
そのまま生きていきなさい 行きなさい
というフレーズから、ブラス隊の力強い演奏が加わり、一気に熱量が上がっていきます。サビに入ると、ステージ後方で黄色いライトが鮮やかに走り回り、祝祭感のある華やかな演出が広がりました。観客の手拍子も一段と大きくなり、会場のボルテージは最高潮に達しました。
2番に入ると、サウンドアレンジが少し変化します。1番でリズムを刻んでいたストリングスが、今度はピンと張り詰めたような演奏を聴かせ、代わりにフルートや鉄琴が飛び跳ねるようなリズムを担当。音色が高くなった分、より軽快で高揚するような雰囲気が生まれました。
再び金管楽器が加わる豪華なサビでは、玉置さんが
千切れた手綱と絆を 結いつけて守っているから
という歌詞を、両手でマイクを強く握りしめて歌う場面がありました。その姿からは、歌詞に込められた熱い想いがひしひしと伝わってきました。
後奏に入ると客席のライトが全点灯し、玉置さんは客席に向けてゆっくりと手を伸ばし始めました。2階席の下手から上手へ、そして1階席の隅々まで。まるで会場にいる一人ひとりに向けるように、丁寧に手をかざしていく姿がとても印象的でした。
壮大なオーケストラの演奏が鳴り響く中、最後の一音が消えると同時に、玉置さんはマイクを天に向けて高く掲げました。その堂々とした立ち姿は、まさにこの素晴らしい夜を象徴する、最高のフィナーレでした。
曲が終わると、割れんばかりの拍手がホール中に降り注ぎ、玉置さんと栁澤さんがステージの前方へと歩み寄りました。そこで二人は、お互いの健闘を称えるように熱い抱擁を交わします。その姿からは、両者の凄まじい信頼関係が伝わってきました。
しばらく拍手を浴びた後、玉置さんが一度ステージを後にします。栁澤さんはその場に残り、オーケストラのメンバーや観客と一緒に、玉置さんへ惜しみない拍手を送り続けていました。
ホールが鳴り止まない拍手に包まれる中、玉置さんが再びステージに姿を見せました。玉置さん自身も笑顔で拍手をしながら現れ、まずはステージの下手でオーケストラの方を向き、リスペクトを込めて手を差し伸べます。その後、上手まで歩いて楽団たちと観客に感謝を伝えると、一度はまた下手端へ戻りました。
すると、

(やっぱり真ん中へ👉)
というようにステージ中央を指差し、舞台の真正面へ。そこで、マイクを通さない生の歌声で

ありがとう〜!!!
と力一杯叫びました。その真っ直ぐな言葉を残して玉置さんが退場すると、栁澤さんもその背中を見届けてから、静かにステージを後にしました。
主役たちが去り、オーケストラだけが残ったステージで、さらに素敵な光景が待っていました。通常はコンサートマスター一人が代表して一礼することが多いですが、この日は九州交響楽団のメンバー全員がその場に立ち、揃って深々と礼をしました。演奏者たちの真摯な感謝が伝わってくる、非常に美しく、清々しい締めくくりでした。その後、終演を告げる館内アナウンスが流れ、特別な熊本公演は幕を閉じました。
以下、本公演のセットリストです。
4. セットリスト
billboard classics
玉置浩二
LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2026
“Fanfare”
5月9日
熊本城ホール メインホール
セットリスト
【一部】
1. ファンファーレ(管弦楽)
2. 歓喜の歌(管弦楽)
3. GOLD
4. キラキラ ニコニコ
5. 純情
6. MR.LONELY〜サーチライト(メドレー)
7. Friend
【二部】
8. 『ハンガリー舞曲 第1集』より 第5番(J.ブラームス)
9. アリア
10. 行かないで
11. ワインレッドの心〜じれったい〜悲しみにさよなら(メドレー)
12. JUNK LAND
13. 夏の終りのハーモニー
【アンコール】
14. 田園
15. メロディー
16. ファンファーレ
5. 公演後の様子
公演後の会場の様子です。



この日のハイライトは、何といっても第一部の「純情」で見せた、玉置さんのあまりに感傷的な歌声でした。
思い返せば、一年前の2025年5月11日(日)、愛知県芸術劇場で行われた“ODE TO JOY”公演でも、「メロディー」の途中で急激に声を詰まらせる玉置さんの姿がありました。奇しくもその日は「母の日」であり、前日がお母様の命日でもあった日。言葉にできないお母様への想いが溢れ出したのではないかと、その胸中に想いを馳せたことを覚えています。
そして、今年のツアーでは、まさに「かあちゃん」への想いが綴られた「純情」がセットリストに入りました。ツアー前半では、この曲から「行かないで」へと続く流れに、亡き母への切実なメッセージを感じずにはいられませんでした。客席のあちこちから鼻をすする音が聞こえてきたのは、きっと聴衆の一人ひとりにも、それぞれの重なる想いがあったからでしょう。
ツアー後半に入り、曲順こそ変わりましたが、その感動が色褪せることはありませんでした。そして迎えたこの日の熊本公演。歌いながら感極まる玉置さんの姿を目の当たりにし、聴いているこちらも胸が締め付けられるような思いでした。
圧倒的な歌唱力と表現力を持ち、ときに「人間離れしている」とさえ思わせる玉置さん。けれど、この日のステージにいたのは、感情を隠すことなく震わせる「一人の生身の人間」としての姿でした。完璧な技術以上に、こうした剥き出しの人間味に触れたとき、どうしようもなく心が惹きつけられるのだと、改めて強く感じた日でした。
こばかず

コメント